
オートモーティブワールド2026のトヨタブースで、自然と足を止めてしまう展示がありました。
展示されていたのは、自動車の座席に使われる内装素材です。本革の端材を使った素材だと説明されているにもかかわらず、本革ではなく、合成皮革でもないというのです。
本革を使っているのに本革ではない。合皮とも違う。その説明を読んだ時点では、どういう素材なのかをすぐに理解することができませんでした。
すぐ横の展示パネルには「本革を凌駕する触感を本革の端材で」という言葉が添えられていました。

ますます謎は深まるばかりです。
しかし、ブース全体を見ていくうちに、この表現は触感の優劣を前面に出すためのものというよりも、素材の扱い方そのものを見直そうとする姿勢を示しているのだと感じるようになりました。
会場では、この素材は「皮革繊維再生複合材」と表記されていました。ただし、開発担当者の説明によれば、この名称は現時点では仮の呼称に近い位置づけだそうです。
本革でも合成皮革でもないため、既存の素材分類ではうまく言い表すことができず、社内でもどのように表現するのが適切かを検討している段階だといいます。
素材そのものはすでに形になっている一方で、それをどう呼ぶかはまだ定まっていない。その状況自体が、この取り組みの性質をよく表しているように感じられました。

この開発の出発点となっているのは、本革シートの製造工程などで発生する端材です。本革は形状や品質のばらつきが大きく、これまでは再利用が難しい素材として扱われてきました。
今回の取り組みでは、こうした端材を別の用途に転用するのではなく、いったん繊維レベルまで分解します。会場ではこれを「端材の繊維化(Scrap to fiber)」として、工程を段階的に示していました。繊維化された本革由来の原料は、化学繊維と組み合わせて再構成され、布状の内装素材へと加工されます。
布の表面に皮革由来の素材が形成された状態は、見た目だけを見ると「革」と呼んでよいのか迷う印象もありますが、実際に触れてみると、確かに皮革由来らしい質感が感じられます。
一方で、天然皮革に見られる部位差や個体差は抑えられており、触感は均一です。展示されていたサンプルには、スエード調の仕上げが施されたシート状のものもありました。色味についても自由度が高く、用途や車両コンセプトに合わせて設計できることが示されています。

この素材を表皮に用いた乗用車用の座席も展示されていましたが、見た目や触感だけを見ると、従来の本革内装と大きな違いは感じられません。

環境配慮型素材であることを強調するのではなく、あくまで車両内装の一部として自然に成立している。その点に、量産を前提とした開発姿勢が表れているように思えます。説明によると、コスト面でも本革よりもメリットがある想定で、今後は車両への順次投入も検討されているとのことでした。
また、今回の展示で特に印象に残ったのは、この素材そのもの以上に、トヨタが資源循環に対して主体的に踏み込んでいる点でした。
昨年10月のJapan Mobility Showでは、「廃材を再び資源に戻す」取り組みを掲げるサプライヤー各社の展示が目立っていましたが、今回はトヨタ自身が、自社の内装素材を対象に、資源循環を前提とした開発に取り組んでいる様子が展示から伝わってきました。
サプライヤーに委ねるのではなく、素材開発の段階から循環を組み込もうとしている姿勢が印象に残ります。
環境規制や製造責任、安全性といった課題と長年向き合ってきた自動車業界だからこそ、資源循環に対しても、実装を前提とした取り組みが進められている。その姿勢が、今回の内装素材の開発にも表れているように感じられました。
