Appleが年に一度開催する開発者会議、WWDC26の会場で、Apple Design Awardsに選ばれたアプリやゲームの開発者たちから、直接デモを見せてもらう機会がありました。毎年、Apple Design Awardsは美しいUIや技術力に注目が集まりがちですが、実際に話を聞いてみると、その根底にあるのは「人がどう使うか」を徹底的に考える姿勢でした。
最初に印象に残ったのは、1日の予定を視覚的に整理できるプランニングアプリ「Structured」です。カレンダーとTo Doリストを組み合わせ、1日のタスクをタイムラインとして表示するもので、時間が進むにつれてグラデーションが少しずつ満ちていくため、今どこまで進んでいるのか、次に何をするべきかが直感的にわかる仕組みです。開発者によると、この視覚的な表現は、ADHDや自閉スペクトラムのユーザーが時間の感覚をつかみやすくするうえでも役立っているとか。単に予定を並べるのではなく、「時間が過ぎていく感覚」そのものをやわらかく見せる設計です。フォーカスタイマーやポモドーロ風の作業ブロックも用意されており、集中と休憩を自然に切り替えられます。予定管理アプリというよりは、ストレスなく、1日を落ち着いて過ごすための”伴走者”のような印象を受けました。

「Moonlitt: Moon Phase Tracker」は、月の満ち欠けや位置を確認できるアプリ。iPhoneやiPad、Mac、Apple Watch、Apple Vision Proで利用可能で、指定した日時や場所で月がどの位置に見えるのかを確認できます。Apple Vision Proでは、自分の周囲の空間に月の位置を重ねて見られるほか、月の軌道や月食のシミュレーションも直感的に理解できるとか。天体ショーを体感できるのはApple Vision Proならではですね。
月の写真を撮るための撮影計画にも便利で、たとえば山の後ろから月が昇る瞬間や、建物の間に月が入るタイミングを狙う場合の正確な位置情報も一目瞭然です。開発チームは、もともと太陽の動きを追跡するアプリ「Sunlitt」を手がけており、その延長で「月にも取り組むべきではないか」と考えたそう。
月のリズムを暮らしに取り入れる人、あるいは月にまつわる季節行事や文化的なイベントを知りたい人にとっては、日々のカレンダーとしても役立ちます。興味深かったのは、Apple Intelligenceとの連携。月齢カレンダーは情報量が多いのですが、文化的な背景を伴うことも多く、慣れていないと読み解くのが難しいもの。そこでMoonlittでは、月ごとの主要な天文イベントを自然言語でまとめる「Moon Guide」を用意しました。複雑な情報を、ユーザーが理解しやすい形に翻訳する。これもまた、AIの実用的な使い方のひとつと言えますね。


私も月を見るのが好きで、これまでに色々な月齢アプリや天体アプリを試してきました。「Sunlitt」は天体観測に必要な情報が手に入るだけでなく、ビジュアルとして美しく、見ているで満足できるのでお気に入りのアプリになりそうです。
音楽アプリ「Guitar Wiz」は、チューナー、メトロノーム、コードライブラリ、コードアシスト、ソングメーカーなど、ギタリストに必要な機能が一通り入ったアプリ。特に面白かったのは、アクセシビリティへの取り組みです。コードの押さえ方を画面で見せるだけでなく、VoiceOverでも理解できるように設計されていました。つまり、画面を見ていないユーザーでも、どの弦のどの位置を押さえるのかを把握できる、というわけです。
初心者向けには、実際に弾いた音が正しい位置かどうかを判定するコードアシストもあり、間違った音も視覚的に示してくれるので、これからギターを始める人にもピッタリ。印象的だったのは、開発者自身が20年以上ギターとピアノを演奏してきたミュージシャンであり、同時にコンピューターサイエンスのバックグラウンドを持つ人物だったこと。「自分が必要だと思う音楽ツールが見つからないから、自分で作ったんです」と話し、プロのミュージシャンとしての経験と、開発者としての視点が重なったからこそ生まれたアプリだと実感できました。

「Sago Mini Jinja’s Garden」は、会場でも思わず声が出るほどかわいらしい子ども向けのApple Arcadeタイトル。主人公のJinjaが庭で種を植え、野菜を育て、友だちに食べ物や帽子を渡していく自由度の高いアプリで、対象は未就学児。文字を読まなくても遊べるように作られています。
このゲームのポイントは、操作のわかりやすさです。私たち大人向けのゲームでは当たり前の操作、例えばバーチャルスティックも、元々アーケードゲームの使用に模したものであることから、4歳前後の子どもにはわかりにくい。そこで開発チームは、タップした場所にキャラクターが向かうマルチタップ方式に変更。実際に保育園などで100人以上の子どもたちにテストし、子どもたちがどこで迷い、何に喜ぶのかを見ながら改善を重ねてきたそうです。ゲーム内には広告も、ランキングも、急かすような要素もありません。安全な箱庭の中で、子どもが自由に育てたり、キャラクターにプレゼントを贈ったりと、のびのび楽しめます。親子で一緒に遊びながら「何を育てているの?」「次は何をする?」と会話が生まれる設計になっているのも良いポイントです。
子ども向けアプリは、ただ可愛ければよいわけではなく、大人が「遊んでいいよ」と安心してデバイスを渡せること、そして子ども自身が迷わず楽しめることが重要なのだと改めて感じられました。

最後に体験した「Arknights: Endfield(アークナイツ : エンドフィールド) 」は、iPhone上でここまで動くのかと驚かされるゲームタイトルでした。3DのアクションRPGでありながら、拠点構築や工場のラインづくりのような要素も持っています。素材をどう流し、どの設備で加工し、最終的な成果物につなげるかを考える部分は、かなり時間が溶けそうなタイプのゲームですね。

技術面では、モバイル上でのレイトレーシング表現やSpatial Audioへの対応が紹介されました。複雑なシーンではより多くの計算を使い、シンプルな部分では負荷を抑えるなど、画面の美しさとパフォーマンスを両立するための最適化が行われているとか。最新ハードウェアでは高フレームレートでも動作しますが、発熱や安定性を考えて60fpsに制限する判断もしているとのこと。ゲームは単に「動く」だけでなく、長く遊べる体験として整備していることも大切ですよね。
今回のデモを通して感じたのは、Apple Design Awardsで評価されるアプリは、派手な機能だけで選ばれているわけではないということ。時間の感覚をつかみやすくする、月の情報を美しく読み解く、ギターの学習を誰にでも開く、子どもが迷わず遊べるようにする、モバイルゲームの表現を一段引き上げる。どのアプリも、ユーザーの体験をどう自然に、どう安全に、どう楽しくするかを突き詰めていました。
美しいUIや最新技術はもちろん重要ですが、その先にあるのは「人」。人が使ったときにどう感じるかの体験と、日常に豊かさや便利さをもたらすアプリであることも非常に大切です。
WWDC26の会場で直接、開発者たちの話を聞きながら、良いアプリとは、技術の見せ場であると同時に、人への想像力の積み重ねなのだと改めて感じました。どのアプリも、これからじっくり使って見たいと思います。
