ゼブラから新しいスタイラスペン「STYLUS 2WAY」が発表された。紙にはボールペンとして、iPadにはスタイラスとして、切り替え操作なしでそのまま書ける1本だ。エレコムとの共同開発で、発売は7月31日。

発表に先立って開催された事前の体験会に参加できたので、開発の背景と実機の感触をあわせて紹介したい。
正直に言うと、最初は「ただのスタイラスペンなんでしょ?」と思っていた。ところが違う。ペン先はひとつ、芯もひとつ。同じペン先が、紙の上ではインクを出し、iPadの上では出さない。これについても詳しく話が聞けた。
秘密は「つる抜け現象」
鍵になっているのは「つる抜け」と呼ばれる現象だ。ボールペンをツルツルした印刷面などに走らせると、ボールが回転せず、インクが出なくなることがある。筆記具メーカーにとっては本来、改善すべき不具合である。

ゼブラはこれを、あえて活かした。紙の上では繊維の凹凸がボールを回転させてインクを送り出す。一方、iPadやガラスフィルムの表面は摩擦が小さいためボールが回らず、インクはほぼ出ない。「紙ではインクを出す」「画面では出さない」という相反する要求を、独自開発の中芯で1本にまとめているのだ。発想の転換という言葉は、こういうときのためにあるのだろう。
5年、試作470種類以上
とはいえ、狙ってすぐ両立できるものではない。開発期間は5年。まずペン先とインクの組み合わせを70種類以上試作し、行き着いたのが「油性チップ×ジェル用インク」という、本来ならミスマッチな組み合わせだったという。そこからインクの潤滑性のバランスを詰めるため、さらに400種類以上を試作したそうだ。気が遠くなる。
電子部品を含む製品はゼブラ単独では開発が難しく、エレコムとの協業となった。ゼブラがペン先・インク・機体の研究を、エレコムが筐体設計・回路設計・製品評価を担当する分業だ。文具メーカーとIT周辺機器メーカー、それぞれの得意分野がきれいに噛み合っている。ちなみに製品アイデアの発端は、ゼブラのインターンシップに来る大学生たちが紙とタブレットを併用している実態からだったという。
インクの研究現場ものぞいてきた
体験会にあわせて、ゼブラのインク研究施設を見学する機会にも恵まれた。ここで聞いた話が「試作400種類以上」という数字の重みを教えてくれた。

インクの開発は、小さな瓶の中での試作から始まる。何百種類もある原材料から数十種類を選び、配合を変えては攪拌機で混ぜて評価する。配合によっては、均一に混ぜて化学反応を進めるために1〜2日間混ぜ続けることもあるそうだ。つまり400種類の試作とは、この気の長い工程を400回以上繰り返したということになる。しかも小瓶でうまくいった配合を数十キロ単位にスケールアップすると、混ざり具合や挙動が変わって失敗することもあるというから、道のりはさらに険しい。

面白かったのが、油性インクとジェルインクの性質の違いだ。油性はボールに絡みつきながら出てくるため、一方向に引き続けるとペン先にインクが溜まってダマになりやすい。一方のジェルは押し出されて流れるように出るので、ペン先に溜まりにくい。この性質の違いを頭に入れると、STYLUS 2WAYの「油性チップ×ジェル用インク」というミスマッチな組み合わせが、いかに常識の外側にあるかが見えてくる。
そしてもうひとつ印象的だったのが、粘度や表面張力といった機械測定でデータ上「合格」が出ても、最後は必ず人の手で書いて検証するという話。利き手、持つ位置、筆圧、書く角度など千差万別な書き方の癖に耐えられるかを、実際の筆記で確かめる。体験会のQ&Aで「書き心地の評価は定量データに加えて開発者の感覚も重視する」という回答があったが、その背景にはこの文化があるのだろう。
ボールペンなのにスタイラス
スタイラスとしての作りも押さえるところは押さえている。Bluetoothのペアリングは不要で、電源を入れればどのiPadでもそのまま書き始められる。パームリジェクション対応なので、手を画面についても誤動作しない。マグネットでiPadに吸着でき、9.5mmという軸の細さも吸着のしやすさを優先した結果だそうだ。

一方で、操作系はあくまでボールペンだ。ペン先の出し入れはクリップを押し込むノック式。電源が入ると本体のLEDが青く点灯し、両面から確認できる。充電はUSB-Cで、30分でフル充電、連続使用は約7時間。10分静止すると自動で電源が切れるオートスリープ(振動検出センサー内蔵)も備えているので、切り忘れの心配は少ない。
主な仕様をまとめておこう。
- 価格: 本体15,000円(オープン価格)、替芯2本入り1,500円(オープン価格)
- ボール径: 0.5mm
- 軸径: 9.5mm
- カラー: ホワイト(光沢)/ブラック(マット)の2色
- 充電: USB-C(30分でフル充電、連続使用約7時間)
- 機能: パームリジェクション、マグネット吸着、オートスリープ(10分)、ペアリング不要
- 対応機種:iPad(第7,8,9,10世代 A16モデル)、iPad mini(第5,6世代、A17 Proモデル)、iPad Pro 11インチ(第2,3,4世代、M4、M5モデル)
注意点もある。ペン先が硬いため、ディスプレイの傷防止とインクが付いた際の拭き取りやすさの観点からガラスフィルムの使用が推奨される。Nano-textureへの使用は、素材を傷つける可能性があるため非推奨だ。防水にも対応しない。また、13インチiPad ProやiPad Airについても使えなくはないが、一部線が途切れるということが発生することがあるため現在のところ非対応となっている。
STYLUS 2WAYは誰にオススメか

ボール径が0.5mmなのは売れ筋であることに加え、細すぎるとiPadが電気的に反応しにくくなる技術的な理由もあるそうで、0.7mmや0.3mmは今後のニーズや次世代機で検討していくという。
想定ターゲットとして挙げられていたのは、学生・看護師・CAなど、紙とタブレットを日常的に併用する人たちだ。授業ノートはiPad、提出書類は紙。そんな行き来のたびにペンを持ち替えている人にとって、「1本で済む」価値はわかりやすい。
実際に書いてみても、そのスムーズさには驚かされた。iPadで書いている時と紙で書いているときの違和感がない。普通のボールペンでiPadに書けるというのは新鮮で楽しい体験だ。筆圧感知などはないため、絵を本格的に描くという人には向いてないとは思うが、紙とiPadでペンを持ち帰ることなく使える。これは今までのアナログとデジタルの境界線を一気に取り払ってくれる製品なのではないだろうか。
なお、YouTubeでは実際に描き心地を試したショート動画を掲載している。気になる人はチェックしてもらいたい。
