
現地時間2026年6月8日、AppleはWWDC26の基調講演を開催した。今年のメインテーマは、間違いなくAIだった。
中でも大きな発表は、次世代のApple Intelligence、全面的に作り直された「Siri AI」、そしてGoogleのGeminiファミリーの技術を活用した新しいAI基盤である。
今回のWWDCは、Tim Cook氏にとってCEOとして最後のWWDC基調講演でもあった。Appleは2026年4月20日、Cook氏が9月1日付でCEO職をJohn Ternus氏へ引き継ぎ、自身はExecutive Chairmanに就くと発表している。長く「AIで遅れている」と言われてきたAppleにとって、WWDC26は次の時代の方向性を示す重要な場になった。
iOS 27をはじめ、6つのOSが「27」世代へ

Appleは今回、iOS 27、iPadOS 27、macOS 27、watchOS 27、visionOS 27、tvOS 27を発表した。
今年のポイントは、Apple Intelligenceを各OSや標準アプリの中により深く組み込んでいくことにある。新しいSiri AI、写真やSafariなどに広がるAI機能、子ども向けの安全機能、そしてOS全体の高速化と安定化。Appleはこれらを今回の大きな柱として示した。

ちなみに、macOS 27の名前は「macOS Golden Gate」に決まった。
最大の発表は新しい「Siri AI」とGemini連携

今回もっとも注目を集めたのは、やはりSiri AIだろう。Siriはこれまでも多くの人が使ってきたが、正直なところ「賢い」とは言いにくい場面も多かった。新しいSiri AIはできることが大きく増えている。
特徴は、会話を続けられること。そして、その答えから次のアクションへつなげられることだ。質問に答えてもらい、その内容をもとにメッセージを送る、カレンダーに登録する、リマインダーを追加する。こうした操作までを一連で行える。これはAppleが以前から実現を掲げてきた「よりパーソナライズされたSiri」に近づくための大きな一歩と言える。
中身は次世代の「Apple Foundation Models」。Geminiと共同で構築

これらの新機能を支えるのは、新しくなった「Apple Foundation Models」、つまりApple自身のAIモデルだ。Appleによれば、この新しいモデルは、Googleと協力し、Geminiファミリーの技術を活用して構築されたものだという。ただし、ユーザー体験としてはあくまでApple IntelligenceおよびSiri AIとして提供される。
このモデルが動く場所は2つある。ひとつはiPhoneやiPad、Macなどのデバイス上で行うオンデバイス処理。もうひとつは、より高度な処理を担うPrivate Cloud Computeだ。なお、Private Cloud Computeについては、さらに複雑な処理が必要な場合は、GoogleとNVIDIAと協力し、Google CloudのNVIDIA GPUを使うことも明らかになっている。
ただ、Appleが強調しているのは、プライバシーである。Private Cloud Computeがリクエストを処理する場合でも、ユーザーの個人データは保存されず、Appleや第三者がアクセスできない設計になっている。また、その仕組みは外部の専門家が検証できるとしている。
つまりAppleは、Geminiの技術を活用しながらも、プライバシー保護とOSへの統合は自社の設計思想でコントロールする、という立場を取っている。
呼び出し方も変わり、専用アプリやVisual Intelligenceも

Siri AIは、呼び出し方も変わる。iPhoneでは従来の「Hey Siri」やサイドボタンに加えて、Dynamic Islandから下にスワイプして会話を始められる。iPadとMacではSpotlightに統合され、画像やファイル、テキストを右クリックしてSiriに質問することもできる。

さらに、専用のSiriアプリも用意される。過去の会話を見返したり、新しい会話を始めたりでき、会話履歴はiCloudでプライベートに同期される。iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Vision Proをまたいで使えるようになる。

カメラを通じて使う「Visual Intelligence」も拡張される。目の前のものを見せて質問したり、料理の栄養情報を調べたり、画面上の内容についてSiriに聞いたりできる。
Apple Intelligenceの新機能も標準アプリに広がる
Apple Intelligenceそのものも、いろいろな標準アプリに広がる。

写真アプリでは、撮影後に構図を調整できる「Spatial Reframing」が追加される。新しい「Extend」では写真の外側をAIで生成し、水平や縦横比を調整できる。不要なものを消す「クリーンアップ」も強化される。
Safariでは、開きすぎたタブをトピックごとに整理する機能や、Webページの更新、商品の再入荷、価格変更などを通知する「Notify Me」が加わる。
パスワードアプリでは、弱いパスワードや漏えいした可能性のあるパスワードを、より強いものへ更新しやすくなる。
Image Playgroundは、フォトリアルな画像生成に対応する。Apple Intelligenceで編集された写真や、Image Playgroundで生成された画像には、AIによる編集・生成であることを示すSynthIDのウォーターマークが含まれる。
ほかにも、メッセージ、メール、電話、カレンダー、ショートカットなど、日常的に使うアプリにもAIが入る。電話アプリの「Call Context」は、通話内容ではなく発信先をもとにオンデバイスで処理される点も説明された。あくまで「誰に電話しているか」を手がかりにする仕組みだ。
OS 27の高速化とLiquid Glassの調整
今年のOSアップデートは、AIだけではない。Appleは速度と安定性もかなり強調していた。
iPhoneとiPadでは、アプリ起動が最大30%、撮影後の写真の読み込みが最大70%、AirDrop転送が最大80%高速化するという。iPadでの外部ドライブとのファイル閲覧・転送は最大5倍速くなるとしている。Spotlight、写真、メールの検索も改善された。

デザイン面では、昨年導入された「Liquid Glass」を調整できるスライダーが設定に追加される。透明感を強くするか、より色付きにするかをユーザーが選べるようになる。Macでも、ツールバーやサイドバーまわりの調整が入った。
子ども向けの安全機能も強化

もう一つ大きいのが、子ども向けの安全機能だ。Appleは、子ども用アカウント、Webサイト閲覧時に保護者の許可を求める「Ask to Browse」、カテゴリごとに利用時間を設定できる「Time Allowances」、再設計されたスクリーンタイムなどを発表した。
子ども用アカウントを作ると、年齢に応じた保護機能がシステム全体で有効になる。新しい連絡先とのやり取り前に保護者の承認を必要にしたり、ヌード検出に加えて暴力的な画像・動画にも対応したりと、保護の範囲が広がっている。
新OSの提供時期と注意点

提供時期も整理しておきたい。新機能は開発者向けテストがすでに始まっており、パブリックベータは来月、正式版はこの秋に無料アップデートとして提供される予定だ。
ただし、Apple IntelligenceとSiri AIには対応デバイスの制限がある。Siri AIはまず、対応デバイスを英語設定にしたユーザー向けにベータ提供され、その後対応言語を広げていく。
なお、EUではDMAの影響によりiOS 27 / iPadOS 27のSiri AIが当初は提供されない。中国でも、規制対応のためApple IntelligenceとSiri AIの新機能は当面提供されないと発表された。
Tim CookからJohn Ternusへのバトン

WWDC26は、AppleがAIで本格的に巻き返しを図ったWWDCだったのではないだろうか。新しいSiri AIは、Apple Intelligence、Apple Foundation Models、Private Cloud Compute、そしてGoogle Geminiファミリーの技術を組み合わせた、新しいパーソナルアシスタントとして発表された。
AppleはAIモデル単体の性能だけで勝負するのではなく、iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Vision Proに深く統合することで、日常の操作そのものを変えようとしている。
とはいえ、Siri AIはまずベータ提供から始まり、対応デバイスや地域にも制限がある。本当に重要なのは、発表の派手さではなく、秋以降に実際どこまで自然に使えるのかだ。
WWDC26は、長く「AIで遅れている」と言われてきたAppleが、ようやくスタートラインに立った発表だった。そしてこれは、Tim Cook氏がCEOとして立つ最後のWWDCでもある。
そのバトンは、9月1日に新CEOとなるJohn Ternus氏へ引き継がれる。AppleのAI戦略が本当に実を結ぶかどうかは、ここからの数年にかかっている。
