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昨日の救世主は今日の敵、対策の下敷きとなるApp Store – iPodの終焉とAppleのビジネスモデルの変質(4)ITジャーナリスト松村太郎のTaro’s eye

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現在の学生に尋ねてみると?

デジタル音楽流通を実現したiPod+iTunesの組み合わせ。iTunes Storeでの楽曲販売数の増加を見ても、その勢いがすさまじかったことがよく分かります。しかしiPodの勢いを止めたのがiPhoneであることもまた、顕著なデータとして表れます。

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iPodの販売台数のピークは2008年の5000万台を売り上げていました。しかしApple全体における利益のシェアは、2006年の40%を頂点にして下落し、2014年までに1%にまで落ち込みました。その原因となっていたのが2007年に登場したiPhoneでした。

iPhoneが定義した現代のスマートフォンが普及するにつれて、音楽プレイヤー機能しか持たない単体のデバイスのニーズは薄れていきました。そしてもう一つの要因が、ストリーミング音楽の登場でした。

ちょうどiPod登場の年に生まれた現在の大学生に音楽について聞いてみると、こんな答えが返ってきます。

SpotifyがAppleとレコード会社の不自由な音楽業界に変革を起こした

iPod登場を20歳前後で迎えた筆者世代とはだいぶ異なる景色の見え方をしていて、カルチャーギャップの存在を感じざるを得ません。

実際、Spotifyが掲げるパーパス(企業の存在理由、存在意義)は「もっと世界に音楽を」というもの。これは、Appleが作り上げたデジタル音楽流通スタンダードが「自由な音楽の楽しみ方を提供していない」という強烈なアンチテーゼでもありました。

Appleとしては、リスナーであるユーザーとレコード会社を結びつけるプラットフォームとしていました。アルバム単位での販売から1曲ずつのばら売りにして、これまでの物理的なレコードやCDを前提とした音楽流通からデジタルの新たなルールを設定しました。

しかしこの販売方法では、著名アーティストの音楽がより購入され、無名のアーティストが紹介されたり、人気を獲得するための仕組みになっていません。しかもユーザー側も、購入していない音楽には出会えないのです。

そこでSpotifyは、前述のようなパーパスを掲げ、ユーザーの共感を誘い、アーティストがチャレンジできるプラットフォームであるとのポジションを作り出そうとしました。AppleのiTunes Storeと同様に、「海賊版撲滅」を掲げていましたが、レコード会社のビジネスの維持ではなく、十分なアーティストの収益化を目指していた点が、Appleとの違いとして浮き彫りになっていきます。

Appleが1兆ドルを最初に達成した理由

AppleはiTunesによって、音楽業界を不自由にしている。そんなユーザーの心理の変化をつぶさに見つけていたのは、インターネットサービスの担当役員だったエディー・キューではなく、フィル・シラーだったかもしれません。

フィル・シラーは現在はフェローに昇格していますが、Appleのワールドワイドマーケティング担当上級副社長として、1997年から2020年までの製品のマーケティングを総括してきた人物です。初代iPodのスクロールホイールも同氏のアイディアだとされています。

そのシラーは、製品に加えて、App Storeの担当にもなっていた点が重要なポイントです。

前述の通り、App StoreはAppleのサービス部門の要とも言える存在ですが、その担当をエディー・キューからフィル・シラーに移された理由は、「マルチサイドプラットフォーム」(MSP)と言われるビジネスモデルにおいて、アプリを提供する開発者と、これを利用するユーザーの双方が、Appleにとっての「顧客である」と定義して、マーケティング・コミュニケーションを展開しなければ成功しないとの経営判断があったからだと考えられます。

マルチサイドプラットフォームは、簡単に言えば「二方良し」の関係で、その最も顕著で重要な事例がGoogleです。

Googleが検索エンジンとデジタル広告でナンバー1の座に就いた理由は、ユーザーに対しては最適な検索結果と知識を発見することができる価値を提供しつつ、広告主に対しては、関連するキーワードを検索するユーザーにのみ広告を表示し、費用対効果をはっきりさせた点にあります。

Googleというプラットフォームを挟んで、ユーザーは検索という価値と、関係ない情報の排除を、企業はより興味があるユーザーへの効果的な広告手段をそれぞれ享受し、お互いのメリットをシステム的に毀損しないように設計できたことでした。

そして、このビジネスモデルこそ、2000年以降のシリコンバレーで最も重要でマーケット的に評価されていたのです。そして、AppleはこのMSPをサービス部門で実現することによって、GoogleやAmazon、Facebookと同様のレバレッジが効いた評価を獲得しようとしていました。

MSPは、ユーザーが増えれば喜んでくれればくれるほど、企業が集まってくる。企業が集まれば集まるほど、ユーザーも増えて喜んでくれる。そんな場を創り出すことです。

しかしiPodを何台売りました、iPhoneを何台売りました、というビジネスは、一般のユーザーも企業ユーザーも区別なく、1台いくら儲かるという飛躍のないビジネスとなってしまいます。これを脱却しなければ、それこそ強大な市場価値を作り出すGoogleに、Appleが買収される未来すら存在していたかも知れません。

そこでAppleは、App StoreでMSPを実現しようとしました。そのためには、開発者もユーザーも「顧客」としてマーケティングするApple社内で最高のセンスを持つ、フィル・シラーが必要だったのです。

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松村太郎

松村太郎

ITジャーナリスト

1980年生まれ。ジャーナリスト・著者として、ITとライフスタイルの取材、記事や書籍の執筆活動を展開。2011年からの8年間、シリコンバレーを現地取材。知見を元にスタートアップから上場企業の支援も行う。2014年、長野県にプログラミング必修の通信高校「コードアカデミー高等学校」設立に尽力。2020年より新設の「iU」(情報経営イノベーション専門職大学)専任教員。

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